「値段が安くなる陰で、誰かが泣いている」 大量廃棄時代の真実
解説・国谷裕子氏。ムダに捨てられる、年10億着の新品の服や大量の恵方巻き。取材で見えてきた処方箋とは。
シェア ツイート

1部 アパレル業界編

1 それでも洋服は捨てられ続ける

1  在庫処分ビジネスの現場

文・仲村和代

4枚に1枚の服が捨てられている

 1年間に10億枚の新品の服が、一度も客の手に渡ることもないまま捨てられているらしい──。

 そんな話を耳にしたのは、SDGsの企画に関わり始めたころだ。いまとなっては記憶がさだかではないのだが、たまたま見かけたネットの情報だったと思う。

 とんでもない数字だ。日本で供給されている服の4枚に1枚は、新品のまま捨てられている計算になる。

 日本には、「もったいない」という考え方が根付いている。かつては、限りある資源をできる限り生かし、無駄を出さないように工夫する暮らしが根付いていた。戦後、大量消費の時代を迎え、その循環の仕組みは崩れてきたとはいえ、多くの人は、なるべく無駄を減らそう、と心がけて暮らしている。それは、自分の家計のためだけではなく、環境に負荷をかけないように暮らしたい、という思いがあるからだ。「断捨離」という言葉が、流行を超えて定着していったのも、たくさんのものを所有していることが、豊かさや幸せにつながっているとは限らない、という思いを抱える人が少なくないことの現れだ。

 誰しも、買った服が似合わなかったり、すぐに流行遅れになったりして、ほとんど着ずに捨ててしまった苦い経験はあるだろう。だが、そもそも商品として消費者の手元に渡ることすらないまま、大量に処分されているとしたら、そうした「無駄」とは全く別の次元の問題だ。

 廃棄は事実なのか。なぜ、そんなことが起きてしまうのか。私(仲村)と藤田さつき記者の2人で、取材を始めた。

条件は「ブランドタグを撮影しない」こと

 3階までの高さに一部が吹き抜けになった倉庫の中には、段ボール箱が何重にも整然と積み重ねられている。「メンズSS」「スカート20枚」。それぞれの箱には白い紙が貼られ、マジックペンでこんな文字が書き込まれている。

 箱の中身は、すべて新品の服。箱をのぞいてみると、きちんとたたまれ、そのまま店に出しても問題なさそうな商品ばかりだ。プレスされ、ビニールシートで保護されたものもある。

 20183月、私は大阪市の在庫処分業者「Shoichi(ショーイチ)」の西成区にある倉庫の一つを訪ねた。ここに、アパレルメーカーや工場などから、「売れ残り」の品が大量に持ち込まれていると聞いたためだ。

 新品の服の大量廃棄問題について本格的に取材を始めたのは、その2カ月ほど前のことだった。だが、大量廃棄はアパレルメーカーにとって、なるべくおおやけにしたくない事実だ。また、業界は製造や流通の仕組みが複雑で、全体像を把握している人も少ないらしい、ということもわかってきた。実態を語ってくれる人は簡単には見つからない。どのようなルートをたどって、どこに廃棄されるのかも、いま一つよくわからなかった。

 そんな中、ある人から「ここなら話を聞けるのでは」と名前があがったのが、ショーイチだった。廃棄の現場というわけではないが、売れ残った服が集まる場所だ。すでに、テレビや雑誌の取材をいくつか受けていた実績もあった。メールで問い合わせてみると、山本昌一社長からすぐに返事があり、ブランド名がわかるタグを撮影しない、といった条件で、取材させてもらえることになった。

 1978年生まれの山本社長は、就職氷河期まっただ中に鳥取大学を卒業。就職状況が厳しかったため、学生時代にネットオークションなどでブランド品販売をしていた経験を生かし、自営でオークションの仕事をする道を選んだ。その流れで在庫処分を手がけるようになったのだという。

 写真記者とともに訪ねたショーイチの倉庫は、倉庫やスーパー、住宅などが混在する一角にあった。入り口は車2台が通れるほどの間口しかないが、奥には体育館ほどの巨大な空間が広がっていた。

「在庫は常時出たり入ったりしてるので、きちんと把握できてるわけじゃないけど、他の倉庫と合わせて100万枚はありますね」と山本さんは言う。そんな話をしている間にも、トラックがやって来て段ボール箱が下ろされ、フォークリフトで奥へと運ばれていく。この日も、1日で4千~5千枚が持ち込まれたという。

 こうした衣料品はなぜ、ここに来ることになったのか。山本さんは段ボール箱を開けながら、説明してくれた。

「これはいわゆるB品で、工場で検品を通らなかったやつですね。素人目にはほとんどわからないけど、ここは結構チェックが厳しいメーカーさんです」。段ボール箱の中にあったのは、女性もののグレーの薄手のパーカーが十数着。広げて見せてくれたが、私にはどこに問題があるのかは全くわからない。

「これはメーカーから持ち込まれたもの。お店で売れ残ったもんなんで、サイズがバラバラです」。そこに入っていたのは、女性ものの茶色の落ち着いたデザインのパンツ。定番に近いので、店に置いておけば売れそうな気もするのだが、サイズがそろっていないと置いておくのは難しい、という事情らしい。

 持ち込まれた段ボール箱には、メーカーや売り主の名前が入ったものも少なくない。回りながら見ていくと、私も最近買ったことがある大手の通販業者や、十代のころに流行っていたブランドもある。あのころはお金もなくて、正価ではとても手が出せなかったような品だ。現物を見ると、縫製やデザインはしっかりしており、一歩間違えば捨てられる運命にあったとはとても思えない。ああ、あのころ手が出るほどほしかった品が、こんな風になっているなんて。思わずため息が出た。

アウターは暖冬になると売れ残る

 山本社長によると、持ち込まれるのは圧倒的に女性ものが多い。納期に数日間に合わなかったためにメーカーが受け取りを拒否し、行き場がなくなったというようなケースもあり、一度も売り場にすら出ることがないまま、「処分品」となるものもあるという。

 こうして売れなくなった品の「行き先」を見つけるのがショーイチの仕事。自社の運営するオンラインショップで売ることもあれば、駅などで開催されるさいに出すこともある。持ち込まれた商品のタグを手作業で外し、どのブランドの商品かはわからないようにしてから出品している。ブランドによっては、自社の商品を正価で売っている店舗の近くで売られると困るため、「催事場はNG」など、条件を付けてくるところもある。買い取りの値段はこうした条件にもよるが、定価の1割ほどで買い取り、1718パーセントで売れるのが一般的な相場。まれに、どうしても売れ残って廃棄する場合もあるが、全体の1パーセント以下だという。

 2005年の創業以来、業績は右肩上がり。年間約600社と取引し、年間500万点ほど扱っているという。

 それにしても、なぜこんなに売れ残るのか。山本さんの紹介で、同社に商品を持ち込んだことのある60代の男性に話を聞くことができた。女性ものの衣料品や雑貨を扱うアパレルメーカーで長く営業担当をしていたという。以前は岐阜など国内の工場で作っていたが、いまは主に中国で作っている。

「服っちゅうのは、半年とか1年くらい前に、流行の見込みを立てて発注するんですが、外れてしまうことも多いんですわ。特に、冬物のアウターなんかは大変で、寒ければ売れるけど、暖冬になると3分の1は売れ残る。値段下げてもだめなんです」

 次の年にまた売る、という選択肢はないのだろうか。

「やっぱり流行がありますからね、12年置くともうだめです。メーカーも、毎日、ものを作ってるわけなので、そのまま在庫として抱えてると、資金もショートしてしまう。次の仕入れのためにも、早めにさばかなあかん。その意味では、ここ(ショーイチ)みたいにタグを変えて、ブランド名がわからんようにして売ってくれるっちゅうのはすごくありがたいですわ」

 零細から大手まで、こうしたメーカーとの取引を続けてきた山本社長は、「うちみたいな企業は、いまのアパレル業界に必要なインフラ」と表現した。

「どんな有能な人でも、ちょうど売れる量だけ作るのは不可能。客がどのくらい買ってくれるかをきちんと予測するのは無理なんで、多めに作るか、もしくは客を待たせるか、ということになる。でも、待ってまで買ってもらえる商品はそう多くない。販売機会をなるべく逃さないためには、やっぱり多めに作るしかないのかなと思います。もし、作るスピードが上がって、客の手元に届く時間が早くなれば、無駄は少なくなるだろうし、うちみたいな業者は減るのかもしれません。それはそれで仕方ないと思ってます」

撮影スタジオまで併設

 倉庫を出た後、今度はショーイチの事務所を訪ねた。繊維の街・船場にある4階建ての小さなビルが、まるまる本社ビルになっている(現在は移転)。階段で4階まで上がると、そこはスタジオになっており、女性のモデルが撮影の真っ最中だった。

 在庫の商品同士を女性社員が組み合わせてコーディネートし、写真撮影して、自社のサイトに載せる。「付加価値を付けることで魅力が伝わって、売れていく」という。100着ほど残っていれば、それだけの撮影コストをかけても、十分見合うのだという。

「付加価値」という単語をこの場所で聞くとは思ってもみなかった。私の初任地である大分県は、それぞれの町で名産品を作ろうという「一村一品運動」に取り組んでいた。農業や漁業など第一次産業に関わる人たちがよく使っていたのが、この「付加価値」という単語だった。農作物などをそのまま出荷するだけではなく、加工品にすることで、商品が日持ちするようになったり、形が悪いといった理由で出荷できない品を生かせたり、といったメリットがある。現金収入にもつながり、規模が大きくなれば、地元での雇用創出にもつながるというわけだ。アパレルという業界でこの「付加価値」という言葉が同じようなニュアンスで使われるのは意外で新鮮だったが、考えてみれば、「素材の持ち味を生かしつつ、少し手を加えて消費者が求めたくなる商品にして買ってもらう」という意味では、農産物の加工品と共通するものがある。

 改めて、ハンガーに掛けられた商品を一つ一つ手にとって見てみた。どれも縫製がしっかりしており、流行のデザインを取り入れ、デパートに置かれていても全く違和感のない商品ばかりだ。

 ショーイチが運営するオンラインサイトものぞいてみた。

「掘り出し物探し 訳あり ちょっとした理由で販売できなくなった商品を、独自のルートで仕入れお客様にリーズナブルな価格でご提供しています。百貨店やTV通販などで販売しているものもたくさん♪」

 価格が安いのは、タグがカットされていたり、メーカーがブランドへの納品をキャンセルされたり、在庫処分だったりする商品だから、といった理由も説明されている。この他は、モデルがきれいに着こなし、季節ものもそろっていて、一般的なファッション関連のサイトと何ら変わりがない。

 試しに、一消費者としての目で買いたいものがあるかどうかを吟味し、購入してみることにした。買ったのは、流行りのハイウエストのベージュのワイドパンツ(2480円)と、「大人こなれ感カジュアルSTYLE」の宣伝文句で売り出されていたミモレ丈のラベンダー色のスカート(2380円)。

 どちらも買い足そうかと迷っていた品だ。届いた品を見ると、デパートなどで売られている品と質の上では遜色ないが、価格は23割、という感覚だ。

 もし、ショーイチが買い取らなければ、こうした商品はそのまま捨てられていたかもしれない。同じように企画され、作られた商品が、ちょっとした運命の違いで、正価で売られることもあれば、バーゲン品で半額になることも、ブランド名を隠して2割になることまである。さらに、最悪の場合はごみになってしまう。

 そして、実感しづらいが、廃棄のコストは価格に上乗せされ、消費者にも跳ね返ってきているのだ。

 私が普段、洋服に支払っているお金は、一体、何に対しての対価なのだろう。「付加価値」でよみがえった商品を前に、複雑な気持ちになった。

シェア ツイート
第1章 それでも洋服は捨てられ続ける(2)

この作品では本文テキストのコピー機能を無効化しています

01