将来の不安と希望を整理する「10の論点」
多くの危機に瀕しながらも行く末が見えない、課題先進国日本。止まらない少子高齢化、ゆきとどかない社会保障、揺れるエネルギー政策、膨大な財政赤字、低迷する景気、脅かされる国益……そこに追い打ちをかけたのが3.11の震災と原発事故であり、政治家の力量不足も明らかになった。もはや一刻の猶予も許されない。各分野の識者18人が、劣化する日本の現状を明確にし、具体的な処方箋を示す。

シナリオ 1 少子高齢化  悲観せず、強みとして生かそう 日下公人/ 白石真澄
 

少子高齢化は本当に問題なのか
 

 

―国立社会保障・人口問題研究所がまとめた最新の将来人口推計では、現在は約一億二八〇〇万人の日本の人口が、三六年後に一億人を切り、五〇年後には八〇〇〇万人台になるとされています。

少子高齢化対策には一刻の猶予もなし、という認識が一般に共有され、誰もが「大変だ、大変だ」と言う中で、日下さんは「少子化は悲観することでもない」と独自のお考えを展開されています。まずはこの点からおうかがいしたいのですが。

日下公人 まず、少子高齢化というと日本ばかりの問題と思いがちですが、そうではありません。先進国は全部そうなのです。日本が他の国よりずっとペースがはやいというだけのことです。

つまり、少子高齢化は先進国病の一種ということになる。これを、病気だからいけない、少子高齢化は悪いことだというなら、先進国が自慢にしていることをやめればいいのです。

具体的にいうと、先進国というのは豊かで、国民の学歴が高く、大都市化が進んで生活が便利になっているわけですね。こういうことをやっていると、子どもは減ってくるのです。

―少子高齢化を止めるならそれに逆行すればいいと。

日下 あまり豊かにならなければいい、学歴を上げなければいい、大都市に住まなければいいということですね。というと、これは中進国へ戻るわけでしょう。

一方、中進国はみな先進国病にかかりたいと思って経済発展を目指すわけですね。かつての日本もそうだった。結果、先進国になれば少子高齢化が進んでしまう。だからといって中進国に戻ろう、というのもおかしな話です。

それよりも、「少子高齢化することによって、住み心地のいい、優れた国をつくれました」という模範を日本が見せればいい。

―生活が豊かになり、高学歴化と大都市化が進めば少子化は必然ということですが、この点について白石さんはどのようにお考えでしょう。

白石真澄 時計の針を逆に戻すということは非常に難しい、ということだと思います。

一度豊かさを享受した者はもう昔の生活に戻りにくいですし、学歴が高くなるということは、人間に付加価値をつけて、イノベーションを起こすということです。今後、日本が成長していく上では不可欠なことでもあるでしょう。

また、都市化にしても経済合理性があるからこそ進んできたわけです。農村型社会、昔のライフスタイル、子だくさん社会に回帰させられません。

だからこそ、日下さんがおっしゃったように、人口が減っても困らない社会をつくっていくことに注力をするべきではないでしょうか。

たとえば、いまの社会保障制度というのは、若い人が高齢者を支える形になってしまっています。高齢者が多くなっていく以上、社会保障制度は持続的ではありません。

高齢者も支える側にまわる、出産でいったん家庭に入った女性ももう一回社会に復帰できるようにする。このように、少子高齢化を悲観的にとらえるのではなく、少子社会に合わせた社会システムづくりにエネルギーを注ぐべきではないかと思います。

「少子高齢化先進国」という強みを生かせ
 

 

―少子高齢化の必然性というものを踏まえた上で、それではいかにして少子高齢化社会に対応し、解決策を講じていけばいいのか。この点については、日下さんから提言をいただいています。

① 少子高齢化先進国の強みを生かせ

② 公共事業より〝日本人〟をつくれ

③ 子どもに尊敬される親になれ

の三つです。

最初に、「少子高齢化先進国の強みを生かせ」ということですね。少子高齢化を強みととらえるわけですか。

日下 少子高齢化は先進国すべてに共通しています。どこでも抱えている悩みで、その中でもトップを走っているのだから、その強みを生かそうということです。

たとえば、日本はシルバー用商品の開発は世界で一番進んでいる。介護用おむつなどは、日本が世界の最先端なわけです。これからおむつを使う人がヨーロッパで増え、アメリカでも増え、となれば、輸出は伸びていく。他にも、日本が開発した補聴器だとか、介護の社会的システムであるとか、いろいろなものを買ってもらえるようになるのです。だから、少子高齢化したからといって経済にたちまち打撃が来るわけではない。

それから、もっと重要なことは、少子高齢化によって文明が円熟期に入るということ。円熟期の幸せというのは、これまでの日本のような成長期の幸せとは違うのです。

たとえば、お金は増えなくても自由時間が増えればいい。実際いまの若い人は働かないですよ。日本の若い人に金をやるから働けと言ったって働かないでしょう。たしかに新聞には「もっと金をくれ」「経済成長を」という記事ばかりですが、それは考え方の古い層を相手に書いているからであってね。

だから、実際に若者たちはすでに、お金はいりません、努力はしません、楽しいことはないですか、ハプニングはないですかという、文明の円熟期に見られる感覚に移っている。

―人口減少の時には文明が転換するということですね。白石さんは少子高齢化の強みという点についてはどのように考えられますか。

白石 日下さんがいい例ですが、日本には生涯現役の高齢者の方がたくさんいらっしゃいます。知識と経験をお持ちになって、ずっと社会で活動されているのですね。

ですから、高齢者が多くなる社会というのをネガティブにとらえずに、「知恵と経験を持った人たちがたくさん日本に誕生するんだ」と考えればいいのではないでしょうか。

こういう人たちが、たとえば海外ボランティアで東南アジアに出ていく。いままでは海外ボランティアといえば青年のことですが、青年海外協力隊のシニア版も出てきました。高齢者が多いということは、人材のパワーが日本にあるということなんだと解釈すれば、何も暗い社会が来ると考える必要はないと思うのです。

もう一つ、少子高齢化先進国の強みを生かすという点でいうと、日下さんもおっしゃるように日本は世界で一番早く高齢化している国なのです。フランスやアメリカは五〇年、六〇年かけて高齢化社会から高齢社会になっていきます。つまり、人口のうち七%を高齢者が占めた国からその倍の一四%になっていくわけですね。その期間は日本が非常に早いのです。

高齢化が早いからこそ、日本で起こっているさまざまな変化に対応する政策づくりが、これからアジアで急速に高齢化していくインドや中国の政策のお手本になると思います。たとえば日本は介護保険を二〇〇〇年にスタートしましたし、こういった保険制度もお隣の国の見本になるかもしれません。

そう考えると、アジアの中で共通の課題を一緒に議論していき、その中で日本が政策のリーダーになっていくというようなこともこれから可能になっていくのではないかと思います。

経済に関して言えば、一人当たりの生産性を高めて、イノベーションを起こして競争力ある産業を日本の中につくっていく。これも一つの生きる道だとは思うのですが、残念ながらいまの政策がそのようになっていないということが問題です。教育に対する公的支出は非常に少ないですし、社会保障関係費用の中で子どもに割かれるお金は先進国の中で比べてもとても少ない。持続的で強い日本をつくるのであれば、もっと人材にお金を、と言いたいですね。特に「人生前半の社会保障」、つまり子どもにお金をかける、グローバル人材を育てる国にしていかなくてはいけないと思います。

公共事業より〝日本人〟をつくれ
 

 

―白石さんから「もっと人材にお金を」というお話がありましたが、日下さんの提言の二つ目、「公共事業より〝日本人〟をつくれ」ということと関連してきそうですね。

日下 公共事業の予算というのはどんどん増えてきたが、竹下政権の時から減らすことにした。だから、現在ではだいぶ減りましたけれども、いま見ると道路も余っているし、小学校もあちこち余っている。

それでも政府は、予算が減ったとはいえ、まだ公共事業をしようとする。それが自分の仕事だからですね。それから、仕事をくれという土建屋さんがいっぱいいて、これが選挙のときに投票してくれますから。とかく公共事業をやろうとして、大震災でもあるとすぐに消費税を上げようとか、復興債を発行しようとかいった話になる。結局、何かしら公共事業をするわけです。

そんなことならば、人間をつくったほうがよっぽどいいと思います。つまり、いままで一生懸命つくった大学も空いているし、道路も空いている、港も使っていないと考えると、公共事業は投資が無駄になっているわけですね。それよりも立派な人間をつくることに投資したらどうなるか。立派な日本人は生涯に一億円か二億円の税金を納めますよ。子どもを一人育てるのに二〇〇〇万円かかると言われていますが、そのかわり一億円の税金を納めてくれるのだから、それを考えればおかしな公共事業をするよりよっぽどいいじゃないですか。

―民主党政権が実施しているいまの子ども手当というのは、理念としては日下さんのお考えと同じ方向性なのでしょうか。

日下 子ども手当については、「子育て世帯が大変だろうから」といった理由を持ち出すのがおかしいわけです。日本国の政策の目標は何かといえば、日本人を増やすことが一番です。そのためには、三歳までお母さんが心をこめて育てれば日本人になる。日本人の心が通じる日本人になります。その人は真面目に働いて、生涯に一億円か二億円税金を納めてくれる。だから、こんなに儲かる投資はないわけです。

白石 公共事業不要論というのはよく言われることなのですが、公共事業の額というのは非常に減っていて、最大期の半分以下になっています。

これからいよいよ昭和四〇年代につくられた道路や橋などが老朽化して、更新の時期を迎えるわけですが、現在の予算では更新することすら精一杯でしょう。新設はほとんどままならないのではないかと思います。特に震災があって以降、安全な町づくりというのは緊急の課題ですよね。

公共事業のムダを減らしてそのぶんを振り向けるというよりも、私は財政支出で最も大きな社会保障費用の一〇〇兆円をどう効率的にしていくかが重要だと思います。現状では社会保障費用の中の七割が高齢者向けです。三割が現役世代向けで、子ども向けというのは本当に三、四%ぐらいなのですね。

日下さんがおっしゃった、教育にお金をかけて立派な日本人をつくれというのは私も大賛成で、少ない子どもにもっとお金をかけなければいけないと思います。今の政権の子ども手当というのは、あれは経済浮揚策なのか、子育て支援なのかよくわからない。お金をかけるというのであれば、もっと効率的な方法でお金をかけるべきだと思います。

これは女性を対象に調査した結果ですが、子どもを増やさない理由、増やせない理由としてよく言われるのが、「子育てや教育にお金がかかる」が四〇%。だからお金が必要だろうと言われるわけです。

私もずっと働きながら子育てをしてきましたが、第一子を産むと働いていた女性の七割が辞めます。サラリーマンの可処分所得や給与というのは、一七、八年にわたってずっと減り続けていて、片働きだけではなかなか子どもの教育のことにまでお金がまわりません。共働きを前提とした制度に変えていかなければいけないのです。しかし、女性が仕事と子育ての両立で、どちらかをあきらめなきゃいけないということがずっと続いているわけです。

さらに、現在の東京都では男性の五人に一人が週六〇時間以上の残業をしている。これでは家庭に帰ってこられません。父親としての責任を果たすこともできない状況なのです。

私は、子育てや教育にお金をかけるというのであれば、バラまきではなく、保育基盤、子育て支援の機能を地域の重要なインフラとしてどれだけたくさんつくっていけるかだと思います。

それから、三歳までお母さんが育てるというのも確かに大事なことで、子育てをしたいという方は家庭に入っていただいていいと思います。一方、三歳児神話というのが間違った考え方で日本に導入されて、三歳まではお母さんが絶対そばにいなきゃいけないというようなことに誤解されている面もあります。その結果多くのお母さんが仕事をやめてしまう。

でも、私も含めて母親は完全ではないですし、きちんとそこを社会的にサポートしていく態勢はとても大事です。みんなで子育てを支援する。家にいらっしゃる方も少し預けてみたいという時にそういうことが可能になるのでしたら、保育園をたくさん増やさなくてはいけない。

子ども手当で月額一万三〇〇〇円を出すのには、二兆五〇〇〇億円ぐらい予算がかかっています。こういうお金を、より効果が長続きする保育園の新設にまわしていくべきでしょう。そうすればお母さんが仕事をやめなくてすむ。共働きが可能になるわけです。地域的に見ても、共働きをしている地域、男性の就業時間が少ない地域は子どもが増えています。ぜひ、家庭で安心して子育てができ、それを地域できちんとサポートできるような基盤整備にお金を使ってほしいなと思います。

シナリオ1 少子高齢化 悲観せず、強みとして生かそう 日下公人/ 白石真澄(2)

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