少数意見を封殺? 地方議会で「政倫審」が乱立
【調査報道+】首長や議員の行いが政治倫理に反していないかを審査する政倫審が、全国の議会に相次いで設置され、この1年余で30件近くに上ることが分かった。非常識で悪質な議員をあぶり出す面がある一方、少数派や改革派とされる議員が叩かれる面も。「私へのいじめ」と明かす改革派議員もいた。地方議会で何が起きているのか。愛知県の2つの市議会で女性議員を対象に開かれた政倫審を皮切りに、地方議会の混沌を覗いた。

「議員パワハラ」の温床か 地方議会「政倫審」年間30件の乱立が示す混沌

 首長や議員の行いが政治倫理に反していないかを審査する「政治倫理審査会(政倫審)」が、全国各地の議会に設置されている。その数はこの1年余りで30件近くに上ることが分かった。非常識で悪質な議員をあぶり出す面がある一方、少数派や改革派とされる議員が叩かれる面もある。実際、「私へのいじめ」と明かす改革派議員もいた。地方議会で何が起きているのか。愛知県の2つの市議会で女性議員を対象に開かれた政倫審を皮切りに、地方議会の混沌を覗いた。(敬称略)

議会批判のチラシ発行元を“犯人探し”

「なぜ電話番号の話が政治倫理に引っかかるのか、ぜんぜん分からない!」

 議員・吉川三津子(67)の悲鳴に似た声が部屋に響き渡った。

 今年23日、愛知県愛西市の市議会第1委員会室。

 長机に一人で座り「弁明」する吉川を、「コ」の字型のテーブルで男性議員が取り囲んでいる。その数は8人。議員らが次々と吉川を問いただしていった。

「チラシには議員しか知らないことが書かれている。請願者も発行者もあなたの政治団体の代表者も同一人物ではないのか」

「電話番号が誰のものか『分からない』と言ったが、後で分かった。それなら発言を撤回する機会もあったのではないか」

 男性議員たちが問題視したのは、20217月から愛西市内で配布され始めた「議会ウォッチング通信」というチラシだ。発行者は「愛西市議会を知ろう会」という団体名で、連絡先として携帯電話の番号が記されていた。

 第1号は「愛西市議会、いまの実態!」という大見出しの下に「こんなに議会改革が遅れている!」「情報公開度が、県下54自治体中ワースト4の愛西市議会」といった文字が並ぶ。愛西市議会の情報公開度ランキングの低さや本会議のネット中継がないことを「遅れ」の例として掲げた。さらに、議会のネット中継を求める市民からの請願が不採択になったことを伝え、賛同しなかった各議員の発言を「びっくり発言」「びっくり反対理由」などとして実名で取り上げた。

 この「通信」で名指しされた男性議員らは発行元と吉川との関係を疑った。なぜなら、ネット中継を求める請願は、彼女を「紹介議員」として出されたものだったからだ。

愛知県愛西市で配布された「議会ウォッチング通信」。発行元は「愛西市議会を知ろう会」で、裏面に携帯番号が記されていた。左は20217月発行の第1号、右は20222月の発行号(写真:関口威人)

 チラシで名指しされた議員の一人、山岡幹雄(66)は8月の全員協議会でチラシの電話番号について「どちらの方か教えていただきたい」と尋ねたところ、当の吉川は「分かりません」と答えた。だが、山岡や他の議員は納得できず、その後の吉川の対応も不誠実だと判断していく。そして「政倫審」という“刀”を抜くことになった。

 愛西市議会は2012年に「議員政治倫理条例」を定めている。「政治倫理基準」を定めた第4条は全部で7項目。その第1項の「(議員は)市民全体の代表者として品位と名誉を損なうような一切の行為を慎み、その職務に関して不正等の疑惑をもたれるおそれのある行為をしないこと」などに違反する疑いがあるとして、今年1月、政倫審の設置を議長に請求した。

 訴えの内容が条例に反しているかどうかをはかる審査委員は8人構成で、議長が議員の中から指名する。吉川三津子のケースでは、なんと、8人のうち5人が審査請求した議員たち本人だった。そこには山岡も含まれていた。

NPOとの関わりも疑惑持たれるが不問に

 三重県や岐阜県と接する愛知県西部の愛西市は2005年、22村が合併して誕生した。吉川三津子は合併前の旧立田村の出身。1997年ごろ、村内に計画された産廃処理施設の反対運動をきっかけに子どもや環境をテーマとした市民活動を始め、「議会にものを言うため」村議になった。

 2005年の合併で市議になるとともに、活動団体をNPO法人にした。1年間理事を務めた後に退任し、「一市民として」NPOや他の市民活動にも関わり続けてきたという。そのNPOが市の児童館の指定管理者となっていたことから、「議員が役員や実質的な経営者である法人は指定管理者になれない」という条例の規定に違反するのではないかと、チラシの問題とあわせて審査会にかけられた。

 こうした動きに吉川は猛反発する。

 長年運用しているブログやSNSなどを駆使して「理不尽な政治倫理審査会にかけられた」「倫理条例の悪用による議会ハラスメントだ」と盛んに情報を発信した。それに呼応する形で、児童館を利用する母親らが支援の署名運動をネット上で始めた。

 市議会で開かれた審査会には毎回、母親や他市の女性議員らが傍聴に訪れた。傍聴者はそこで、男性議員8人に取り囲まれ、次々と問いを浴びせられる吉川の姿を目の当たりにした。議場に足を運んだ母親の1人は「コロナの最中に議会がこんな議論をしているなんて、市民として恥ずかしい」とあきれ返った。

 実は問題とされた「通信」を発行したのは、児童館の利用経験がある子育て世代の男性だった。

「子どものことから吉川議員とつながり、議会の問題も考えるようになった。平日は働いているので、通信の連絡先は別のメンバーの電話番号にしてもらった。それがこんな大ごとになってしまうなんて」

 取材に応じた代表の男性は、そう言った。男性によると、「愛西市議会を知ろう会」のメンバーは主にSNSでやり取りしており、直接のつながりはほとんどない。連絡先になったメンバーが吉川の後援会代表を務めていることは後から知ったという。でも、それが特別な問題だとは思わない。政治に対して市民がゆるやかにつながる動きは「愛西では今までなかったのではないか」と感じているが、全国に目を向ければ、そうした動きは珍しくない。

「議員こそ市民活動に取り組むべき」が持論の吉川三津子議員。政倫審の審査を経て議長から「口頭注意」を受けた310日に、愛西市役所前で(写真:関口威人)

 愛西市議会の政倫審は222日の5回目の会合で議論を終え、報告書をまとめた。吉川とNPOとの関わりについては不問となったが、チラシの問題については対応が不誠実だったとして「条例に抵触する部分があった」と断定。3月定例議会での議決を経て310日、吉川は議長から「口頭注意」の処分を受けた。

 議長の島田浩(62)はこう言う。

「吉川議員には『今後は発言や行動に気を付けるように』と注意をした。一方で今回の政倫審については多くの市民や関係者から議会に対するおしかりの言葉をいただいた。本当に政倫審にかけるべき問題だったのかどうか、条例の改正も含めて今後、全員で協議していきたい」

 一方、吉川の心には不満が残っている。“偏った議員たち”の手でまとめられた報告書には事実誤認が多く、吉川自身やNPO関係者、「通信」発行者たちの名誉も回復されていないと考えているからだ。

 裁判に持ち込むことも考えた。しかし、思いとどめた。

「そこにエネルギーを使うより、議会の実態をもっと市民に知らせたい。地方議会は役割をもっとコンパクトにして、多様な議員を増やさないといけない」

 来月には市議会選挙が控えている。この混乱の是非を判断するのは、市民の一票だ。

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