プレーするのが不可能なほどのバグ発生
事前予約は800万本。億ドル単位の予算をかけて作られた「トリプルA」超大作「サイバーパンク2077」が、クリスマス商戦で大炎上した。不可解なほど大量のバグは、ソーシャルニュースやYouTubeの格好のネタにされた。開発元のポーランドのゲームスタジオ・CDプロジェクトレッドはどんな現場だったのか? そしてなぜ、ゲーム史上前代未聞の事態は起きたのか?
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2020年最高のビデオゲームになるはずだった「サイバーパンク2077」に一体何が起きた?

 10年近い開発期間を経て大きな期待を集めてリリースされたのに、ふたを開けてみるバグだらけ。ファンは怒り狂っている。何百万人もの購入者が返金を求める一方で、投資家は集団訴訟の準備に入った。

(取材・執筆 マイク・アイザック、ケレン・ブラウニング)

事前予約だけで800万本

 ファンの間でビデオゲーム「サイバーパンク2077」への期待は10年近くにわたって高まり続けていた。

 ポーランドのゲーム開発スタジオであるCDプロジェクトレッドが「サイバーパンク2077」の開発プロジェクトを発表したのは2012年。一度プレーし始めたら、リアルなSF世界にどっぷり漬かり、時間がたつのも忘れて熱中してしまう――これが売り物だった。

 以来、CDプロジェクトレッドは手を替え品を替えてファンの期待を煽った。驚くようなティーザー予告編を公開したり、俳優のキアヌ・リーブスやミュージシャンのグライムス、ラッパーのエイサップ・ロッキーらセレブとのコラボを発表したり。メディアも加勢し、「今年――ひょっとしたら今世紀――最も期待されるゲームかもしれない」などと大見出しで伝えた。

「サイバーパンク2077」の舞台となるのは未来のデストピア社会だ(ガイド役はリーブス)。そこではデジタル放浪者がハイテク兵器でボディーを強化し、巨大企業が支配する世界を旅する。プレーヤーは自由自在に自分のキャラクターをカスタマイズし、広大な未来都市を思うがまま探検する。ゲームで得られる体験は革命的、ソニーとマイクロソフトの次世代ゲーム機を持っていればなおさら――こんな宣伝文句にファンは狂喜した。

 結局、202012月の正式リリースを待たずに、「サイバーパンク2077」は事前予約だけで800万本も売れた。ファンは現物を見ないままで大枚をはたいたわけだ。

 ツイッター上でファンの興奮が最高潮に達しようとしていた20187月のこと。「サイバーパンク2077」の公式アカウントはファンから「ゲームの中からミームは出てきますか?」と尋ねられると、「ゲーム全体がミームになります」と回答した。今から振り返れば予言的なツイートだった。ただし、開発者の思惑とは百八十度異なるミームになるのだった。

プレーするのが不可能なほどのバグ

 1210日にいよいよ「サイバーパンク2077」がリリースになると、数千人にも上るゲーマーがそれぞれビデオを作成してインターネット上で拡散させた。ビデオで取り上げらていたのは大量のバグだ。ビルの床全体を覆う小さな木々、空から降ってくる戦車、オートバイに下着なしで立ち乗りしているキャラクター――。爆笑モノのバグも多かった。

 これだけバグが多いとプレーするのは事実上不可能だった。第一に、ゲームはエラーや不具合でいっぱい。第二に、キャラクターはまともに機能しない人工知能(AI)に依存している。第三に、少し古いゲーム機とはほとんど互換性がない。

 今週(12月第3週)に入ると、ゲーマーの間で返金運動が一気に盛り上がった。ソニーの顧客サポートセンターにはあまりにも多くの抗議が殺到したことから、一部のウェブサイトがダウンする羽目になった。事態を重く見たソニーとマイクロソフトの両社は、オンラインストア経由で「サイバーパンク2077」を購入したファンに対して全額返金を申し出た。ソニーはさらに踏み込んで、同社オンラインストアから「サイバーパンク2077」を削除した。

 話題性から見て、「サイバーパンク2077」のリリースはビデオゲーム史上に残るスキャンダルとして記憶されるだろう。何しろ、クリスマス商戦の真っただ中に満を持してリリースされて大炎上したのは、業界の寵児としてもてはやされたゲームスタジオが10年近くかけて開発した超大作なのだから。

「サイバーパンク2077」のようなビデオゲームは、業界で「トリプルAゲーム」と呼ばれる。ゲームスタジオが何年にも及ぶ開発期間をかけて何億ドルにも上る予算を投じる超大作のことだ。トリプルAゲームを手掛けるゲームスタジオは大きなリスクと常に隣り合わせだ。

 だが、「サイバーパンク2077」の場合、何が起きるのか事前に予見できていた。CDプロジェクトレッドの内部関係者によれば、同社の開発体制は歴史的に見て問題含みであり、ファンの熱狂とは裏腹に開発現場は早くから警戒信号を発していた。

Photo/Getty Images

共同創業者はポーランドの高校クラスメート2

 CDプロジェクトレッドが誕生したのは、ゲーム産業が大変革して急成長しつつあった1990年代のことだ。ポーランドで同じ高校に通っていたマーチン・イウィンスキとミヒャール・キシンスキの2人が意気投合し、首都ワルシャワで同社を共同で創業した(当時CD-ROMディスクは最新のイノベーションとして注目されていた)。アメリカから輸入したゲームをポーランド仕様にローカライズ(現地化)し、リパッケージ版として販売するビジネスからスタートしている。

 イウィンスキは「高校ではわれわれ2人とも無断欠席の常習犯。授業をサボっていつもゲームばかりしていましたね」と同社オーラルヒストリー(口述歴史)の中で振り返っている。

 本紙が複数の初期社員にインタビューしたところ、イウィンスキとキシンスキの2人はマーケティングとストーリーテリングに優れ、芸術家気質のビジョナリーだ(現役社員は報復を恐れて匿名を条件にインタビューに応じている)。ゲームに情熱を注ぐあまり、開発現場の状況を無視してよく暴走したという。

 2人は当初から途方もない大目標を掲げていた(同時に途方もない大失敗もしていた)。飛躍のきっかけになったのは、作家アンドレイ・サプコフスキーによるファンタジー小説シリーズだ。これを原作にして初のオリジナルゲーム「ウィッチャー」を開発し、アクションRPG(ロールプレイングゲーム)の金字塔にしよう――これが大目標になった。

 2007年発売の「ウィッチャー」第1弾は失敗だった。多数のバグを抱えていたうえ、多くの機能が詰め込まれ過ぎていてスムーズに動かなかった。ゲーム開発に関わった元社員によれば、プレーヤーがゲーム開始に向けて基本的な画面を開こうとするだけで35分もかかったという。

 開発哲学にも問題があった。例えば、開発チームはいわゆるミドルウエア――ゲーム開発に不可欠な補助的ソフトウエア――を自前で開発しなければならなかった。経験豊富なミドルウエア開発業者とライセンス契約を結べば高性能製品を使えたにもかかわらず、である。結局、性能に劣る自社開発製品を使わざるを得なかった。

 それでも「ウィッチャー」シリーズは早い段階から熱烈なファンを獲得できた。特に第3弾の「ウィッチャー3 ワイルドハント」は微細に描かれた世界と深いストーリー展開が高く評価され、数々の賞を受賞した。

 第1弾と第2弾と同様に、第3弾も当初からバグの続出でプレーヤーの間で不評を買っていた。にもかかわらずファンの多くは最後には「テスト&リリースはCDプロジェクトレッドの企業文化」と解釈し、離れなかった。「テスト&リリース」とは、テストを終えたら不完全なままでも製品をリリースしてしまう手法のことだ。

広告塔に人気俳優のキアヌ・リーブス起用

 そして2012年に入ってCDプロジェクトレッドは新たな開発プロジェクトをぶち上げた。1988年リリースのテーブルトークRPG「サイバーパンク」から着想を得た「サイバーパンク2077」の開発に乗り出すと表明したのだ(テーブルトークRPGとは、プレーヤーがコンピューターの代わりに紙や鉛筆を使って遊ぶ対話型RPG)。同社にとって自力で一からSFの世界を構築するプロジェクトは初めてだった。

 ゲーム内でプレーヤーが旅する空間は、デストピア世界の中心に位置する巨大都市ナイトシティだ。そこでは人間と機械が合体して傭兵となり、邪悪な巨大企業と戦う。『ストレンジ・デイズ』や『ブレードランナー』、『マトリックス』をはじめ、SF映画の大ヒット作の要素がゲーム内にうまく取り込まれている。

 だからこそ『マトリックス』の主演を務めるリーブスがゲームの中に登場するのだ。2019年に開かれたゲームの祭典「E3」中にはプロモーションビデオが上映され、彼のキャラクターが紹介された。直後に煙の中から本人がサプライズでステージ上に現れ、「ゲームの中ではプレーヤーは未来都市の中を歩き回る。息をのむほどすごい体験ができる」と熱く語っている(本紙は所属事務所経由で彼にコメントを求めたところ、返事を得られなかった)。

ファンに過剰な期待、高まる開発現場の不安

 そんななか、CDプロジェクトレッドの内部は不安でいっぱいになっていた。経営陣が派手なマーケティングを展開して「高度にカスタマイズできるキャラクター」「無限に探索可能な世界」などと高らかにうたい、ファンの間に過剰な期待を抱かせていたからだ。元社員の話を総合すると、当時の開発現場にしてみたら経営陣の公約はほとんど達成不可能だった。

 2019年末までに、ポーランド国内の業界関係者の間では「サイバーパンク2077」をめぐって悪いうわさが広がり始めていた。開発が大幅に遅れ、翌20204月のリリースにはとても間に合わない――。一部の取締役や経営幹部の辞任も悪い兆候と見なされた。

 元社員らによる口コミ情報を掲載するウェブサイト「グラスドア」上では、CDプロジェクトレッドの内部で起きている混乱が書き込まれていた。ゲーム用ボイスチャット「ディスシコード」のサーバー上で広がる社内のうわさ、経営陣が設定する理不尽な開発スケジュール、経営内部の対立激化、準備不足・無計画が災いして「クランチ」に追い込まれる現場――。クランチとは、ゲームのリリースを控えてゲーム開発者が長時間労働を強いられる状況を指している。過酷な労働環境に耐えきれず、開発現場のベテランも次々と辞めていた。

 元社員の一人はグラスドア上で次の書き込みをしている。「オーナーである共同創業者にしてみたら、会社はカネを稼ぐためのマシンでしかない。だから社員は人間というよりもデータのように扱われている」

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2020年最高のビデオゲームになるはずだった「サイバーパンク2077」一体何が起きたのか?(2)
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