日本は「教育立国」という幻想
「すべての女性が輝く社会」は、日本政府が掲げる重要課題の一つ。その実現には、女子教育の充実が欠かせない。だが、各種データを用いて他の先進国と比べると、日本のそれは最低水準にあるという。いったい何が問題なのか? 教育の男女格差を解消するには何が必要なのか? エビデンスと理論を用いて処方箋を示す。

5回 女子教育問題解決のための教育施策とは

 前回は、女子校の効果は、それを取り巻く社会状況に依存するところがあり、日本の女子教育問題を解決するには不十分だという話をしました。今回と次回は、女子教育の問題を解決するために必要な様々な施策について解説していきます。今回はまず、教育施策の話をします。

政府の支出にみるジェンダー不平等

 女子教育の問題を解決するために必要な教育施策を考える上で、まず日本の教育へのインプットにおける重大な2つのジェンダー不平等を解消する必要があります。1つは教育への政府の支出で、もう1つは教員です。言い換えれば、お金と人です。前者から見ていきましょう。

 連載第1回で、日本は女子学生が男子学生よりも少ない、先進国の中でも珍しい国だという話をしました。そして、大学院における女子学生の少なさは、先進国でもダントツです。大学生・大学院生は授業料を払って在籍しているわけですが、大学生には教育ローンや奨学金とはまた別に、政府による支援が行われています。日本私立大学連合会の平成31年度私⽴⼤学関係政府予算要望データ編を参照すると、国立大学生には1年当たり202万円、私立大学生には16万円の公教育支出がなされています。つまり、大学に女子学生が少ないということは、男性のほうがより多く政府補助を受け取って、人的資本を蓄積して労働市場に出ていくことになります。政府の補助金が、男女間格差を拡大させているのです。

 では、それがどの程度になるのかを、便益帰着分析という手法を用いて見てみましょう。この手法を使うと、政府の支援をどの集団がどれだけ受け取っているかを知ることができます。この分析手法では、富裕層と貧困層、マイノリティとマジョリティなど、さまざまな集団を設定して比較することができ、もちろん男女もその一つとなり得ます。

 具体的な計算方法を述べると、分析したい集団の就学率に、その教育機関に在籍している間に受け取る政府の支援額を掛け合わせます。こうすると、その集団の構成員1人当たりが受け取る政府支援額を算出することができます。

 仮に、富裕層が国立大学に就学する率が80%、貧困層のそれが20%だとします。先の私大連のデータに基づけば、国立大学生は1年間に、1人当たり202万円の公的支援を受け取っているので、国立大学生は卒業するまでに808万円の公的支援を受け取ることになります。就学者が全員無事に卒業できたと仮定すると、富裕層の8割が国立大学へ進学して808万円を受け取ることになりますから、大学に進学しなかった人も含めた富裕層全体では、1人当たり平均646.4万円を受け取る計算になります。それに対して貧困層では20%しか国立大学に進学しないので、808万円×20%=161.6万円を、1人当たり平均で受け取ることになります。つまり、1人当たりでみると、富裕層は貧困層よりも平均して484.8万円多く受け取っていることになります。

 これはあくまで仮想事例ですが、社会的に有利な集団の子どもほど大学・大学院へ多く進学する傾向にあるため、恵まれた子どもたちほど、政府からの教育支援を多く受け取って人的資本を蓄積し、社会に出てから高い賃金を得ることになります。それに対して、恵まれない子どもはその逆となりますから、政府がなんらかの手段を講じない限り、基本的に教育と政府は、社会的格差を拡大する役割を果たします。社会的格差を教育が縮小するというのは基本的には幻想だということは、ぜひ覚えておいてください。では早速、実際のデータを見てみましょう。

 政府から学生が受け取る教育支援は、理系のほうが文系よりも多いはずですし、学部よりも大学院のほうが多いと考えられます。しかし、良いデータが見つからなかったので、私大連のデータがすべての教育段階・すべての学部に当てはまると仮定して計算してみます。理系にも大学院にも、男性のほうが多く進学していますから、計算結果は男女間格差の最低ラインを示しているはずです。このとき、精密なデータを基に精密な計算ができたなら、男女間の格差はこれより大きくなります。公立大学のデータは分からないので、国立大学と同程度としておきます。就学率は、総務省統計局の人口推計データと、文部科学省の学校基本調査における教育段階・設置者別の就学者数から筆者が計算しています。退学留年はないものとして計算していますが、その値が大きくかつ男女間で顕著に差があるのでなければ、大勢を覆すことはありません。いくつも仮定を置いた計算なので精確なものではありませんが、大まかに理解するうえでは問題ありません。

1  高等教育、段階・設立者別就学率

 上の表はその計算結果を示したものです。表は百の位で四捨五入したものを表示しているので、計算が一致しない部分があります。それぞれの教育段階の値を足し合わせていくと、男子は1人当たり175.7万円、女子は128万円を受け取っていることになります。ここでは政府からの教育支援を、女子よりも男子が約40%多く受け取っていることになっていますが、恐らくここが最低ラインで、実際にはこれより大きな差が生じているはずです。この40%程度の格差というのは、私が2016年に計算した時とほぼ同じ値です。

 このような差が生じてしまう原因として、大きく2つの理由が考えられます。1つは、そもそも女子の大学・大学院への就学率が低いので、政府からの教育支援を受け取る機会を逃しているということです。もう1つは、若干ではありますが、政府の支援がより多く入ってくる国公立で男女間の格差が大きく、政府の支援が少ない私立で男女間の格差が小さくなっている、ということがあります。恐らくこれは、国公立大学に理系が多いことが影響していると考えられますが、いずれにせよ、①進学するかしないか、②進学するとしてどこへ進学するかの2点によって、集団で見たときに男子のほうが、女子よりも40%程度は政府の支援を多く受け取って、人的資本を蓄積していると考えられます。そして、人的資本はリターンを生み出すわけですから、政府からの支援の受け取りに際して生じた40%程度の差は、社会に出て働いて得る賃金においては、より大きな男女間格差となっているはずです。基本的には政府と教育は、社会経済的な格差を拡大させますが、日本では男女間格差でも、このことが当てはまっています。

 では、進学するか否か、どこに進学するかで生じる、政府の教育支援の受け取りに関する男女間格差は、どのように解消すればよいでしょうか? 基本的には男女が等しく進学し、等しく同じものを学ぶようにすることです。具体的に言えば、より多くの女子学生が国公立の大学・大学院へ進学するように支援していくことです。しかし、それには少なからぬ時間がかかることが予想されます。政府の教育支援における男女平等を迅速に成し遂げると同時に、進学における男女平等を実現するための手段として、奨学金が挙げられます。具体的に言えば、政府による教育支援の男女差をなくせるだけの金額を原資として、国公立の理系の大学・大学院へ進学する女子に奨学金を出すということです。あるいは、教育プロセスにおける問題(これについては後述)を勘案して、国公立の女子工科大学を設立し、一般の国公立よりも授業料を低く抑えるというのもあり得る方策でしょう。公教育支出という点から見れば、これは男女平等を目指す政策ですが、有権者にそれなりのリテラシーがあるのと同時に政府がきちんとした説明をしなければ、世論の支持は得られないということは、東大の女子学生への家賃補助が大きな話題となったことからも明らかです。

国別にみる女性教員割合

 次に、教育へのインプットにおけるジェンダー不平等の、もう一つの要素である教員について見ていきましょう。

 日本の女性教員の割合を教育段階別に、OECDの高所得国(以下、先進国)と比較してみます。日本以外の国のデータは、世界銀行のWorld Development Indicatorsから、それぞれ最新年のものを取っています。日本のデータは、世界銀行のデータベースにはなぜか存在していないので、文部科学省の令和3年度学校基本調査からデータを持ってきました。日本のデータと国際データでは、保育園・高等専門学校の扱いなどをめぐる定義に違いがあり、これを完全に揃えるのは不可能なので厳密な比較はできませんが、大勢を把握するぶんには問題はありません。

1  就学前教育・女性教員割合

 まず就学前教育から見ていきましょう。この教育段階では、すべての国で85%以上の教員が女性です。日本も94%と非常に高い値です。これらのことから、すべての先進国で、幼児教育は女性が担うものという社会的慣習があることが読み取れます。これは、家事育児労働を男女で平等に分担することを考えれば決して良いことではありません。次回で説明しますが、確かに日本は先進国の中で、高い教育水準にある女性がリーダーとなることに関して最低水準です。ですが、子どものケアという点では、先進国のどの国も似たり寄ったりで、男女平等からはほど遠い状況にあります。

2  小学校・女性教員割合

 次に小学校です。女性教員の割合は、3分の2以上の国で80%を超えています。このことからも、先進国では全般的に、子どもに関することは女性が担うものだという強い規範が存在していることが分かります。その中で日本は62%と、先進国の中で最下位です。だからダメだというのは早計で、男女が平等に子どもの教育に携わることが理想であるなら、むしろ日本の小学校は、先進国の中で最も男女平等に近い状況を実現させていると言えますし、私もそう考えます。

3  中学校・女性教員割合

 次に中学校です。ここでは約3分の2の国で、女性教員の割合が3分の2を超えています。中学校までを義務教育とする国が多く、ほとんどの先進国で、義務教育の大半を女性教員が担っているというジェンダー不平等が存在しているわけです。こうした中で日本の場合、中学校の教員の44%が女性ですから、平等に近いと言えます。つまり、日本の義務教育を担う教員についていえば、他の先進国と比べてジェンダー平等に近く、男女の教員の平等性は先進国の中でもトップレベルだと言えるのです。

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