下流は精一杯、上流は欲しいものがない
衝撃のベストセラー『下流社会』から10年——日本は新しい「身分社会」に突入していた!

1章 階層格差の実態
持てる者は富み、
富める者同士が結びつく

年収400万円と1000万円に階層の切れ目

 まず、三菱総合研究所「生活者市場予測システム」2014年版により、階層ごとの基礎的な特徴を概観しておこう。

 最初に経済的な面(図表11)。男性では当然のことながら個人年収と階層意識は比例している。男性の個人年収別に階層意識を見ると、年収1000万円以上では「上」が57となり、800万円~1000万円未満で「上」が38である。

 逆に、年収400万円未満では「下」が6割以上となる。そして400万円以上1000万円未満で「中」が4割以上となる。つまり、400万円と1000万円に階層の切れ目があると言えるのである。

 女性の階層意識は配偶者の経済力に規定されることが多いので、あまり個人年収による階層差は出ないと予想したが、そうではなかった。1000万円以上は「上」が53800万円~1000万円未満は「上」が41というように、女性でも予想以上に個人年収と階層意識の間に比例関係があった。結婚しても働く女性が増えたために、女性全体の中で夫の年収によって妻の階層が決まる人の割合が減ったのであろう。

かちかち婚

 さらに、『下流社会』でも紹介したように、近年夫である男性の年収と妻である女性の年収が比例するようになってきている。つまり年収の高い男性の妻の年収は高いのである。

 かつては、男性の年収が高いと女性の年収が低くなる傾向(「ダグラス有沢の法則」)があった。しかし近年は女性が経済力を付けてきたために、その女性と見合う男性の年収は高くなるという傾向が出てきたのである。

 それを裏付けるように、既婚女性の年収とその配偶者の年収をクロス集計したところ、年収800万円~1000万円未満の妻の夫は年収800万円以上が34という結果が出た(図表12)。勝ち組女性と勝ち組男性の結婚、いわゆる「かちかち婚」である。

 他方、年収200万円未満の妻の夫の年収は44400万円未満であり、800万円以上は1割ほどである。

 また、年収600万円以上の妻の夫は400万円未満が3割以上おり、夫より妻の年収が多いケースがとても多くなっている。

上位9%59の資産を保有し、
下位494%しか保有しない

 次に金融資産について分析する。拙著『データでわかる日本の新富裕層』(洋泉社)では、2013年の「生活者市場予測システム」を使って金融資産の分析を行ったが、同じことを2014年のデータでやってみよう。

 まず3万人のサンプルから、金融資産(預貯金と有価証券の合計金額。既婚は夫婦合計)が「特になし」「わからない」という人を除いた23080人について、金融資産別の人口構成比を見る。「特になし」「わからない」を入れると、傾向が見えにくくなるからである。

 すると、1億円以上が1255000万円以上1億円未満が33%3000万円以上5000万円未満が467で、合計92%である(図表13)。

 次に、金融資産の総額を推計する。50万円未満は25万円、50万円~100万円未満は75万円、100万円~200万円未満は150万円というように中間値を平均資産額と仮定し、かつ1億円以上は25000万円と仮定する。

 すると、たとえば50万円未満の人は3734人だから金融資産は93350万円、1億円以上の人は289人だから金融資産が7225000万円というようになり、23080人全員の金融資産総額は28978200万円となる。

 それに対する金融資産別の構成比を見ると、1億円以上の人が249%5000万円以上1億円未満が195%3000万円以上5000万円未満が149%で、合計593%である(図表14)。

 つまり、人口の9%が、全員の金融資産総額の59を保有しているということになるのだ。

 逆に、300万円未満の人の構成比は49あるが、彼らの金融資産が金融資産総額に占める割合はたった4%に過ぎないのである。

格差の根底にある土地所有

 次に階層意識別の金融資産を見る。

 5段階の「上」では3000万円以上が36あり、1500万円以上まで合計すると5割を占める。「中の上」も3000万円以上が19おり、1500万円以上まで合計すると34を占める。

 他方、「中の中」になると32100万円未満であり、「中の下」では46、「下」では65100万円未満である(図表15)。このように金融資産の格差は歴然としている。

 保有する金融商品を見ると、3段階の「上」では「外貨預金」「投資信託(株式投信、公社債投信、MMFETF、不動産投信RIETなど)」「株式(ミニ投資、累積投資、従業員持株制度を含む)」「国債、地方債」が他の階層よりも多く、特に株式は36が保有し、投資信託は27が保有している(図表16)。

 また、過去1年間の年収の種類を見ると、上流と下流の違いは「預貯金、株式、FX(外国為替証拠金取引)などによって得た利子・配当金」および「アパートや駐車場等からの賃料収入」によることがわかる。特に60代の上流層では45が「預貯金、株式、FX(外国為替証拠金取引)などによって得た利子・配当金」、15が「アパートや駐車場等からの賃料収入」を得ている。東京都在住の60代の上流層に限ると「アパートや駐車場等からの賃料収入」を得ている人は22にのぼる。

 逆に年収の種類別に階層意識を見ると、「アパートや駐車場等からの賃料収入」を得ている人の階層意識は3段階で「上」が32である。特に、東京都在住の60代で「アパートや駐車場等からの賃料収入」を得ている人に限ると「上」が38である(図表17)。

 また、世帯全体の金融資産別に年収の種類を見ると、金融資産が多い人ほど「預貯金、株式、FX(外国為替証拠金取引)などによって得た利子・配当金などの収入」を得た人が多く、3000万円以上の階層で4割、5000万円以上の階層ではほぼ5割を超える(図表18)。

 同様に「アパートや駐車場等からの賃料収入」も1億円以上の階層では15が得ている。

 このように階層格差の根底には土地所有の問題があることがわかる。

階層上昇するために時間も金もかかる

 最終学歴別の階層意識を見ると、男性は四年制大学卒で「上」16、「中」36、「下」44であり、ほぼ全体平均と同様の階層構造を持っている(図表19)。言い換えれば、男性にとって四年制大学を出ることは特に階層上昇の手段にならないということである。

 女性の四年制大学卒は184533であり、男性と比べるとまだ少しは階層上昇に貢献しているが、しかしそれほど大きな力を持っているとは言えない。

 男女ともに大学院を修了して、ようやく比較的階層上昇できるのである。これはとても金がかかる社会である。50年前なら高校を出るだけでも階層上昇の手段となった。ということは、ほとんど金をかけずに階層上昇できたのである。

 その時代の大人は中卒、小卒が大多数だったからである。しかし今は、階層上昇するために時間も金もかかる時代になってしまったのだ。

 言い換えると、大学を出ても階層上昇できるとは限らないのだから、大学に行かずに金を稼ぐ方法を考えてもいいはずだ、ということにもなる。

「大学貧乏」の増加

 では、いま人々は、大学をどう考えているのか? 「下流社会10年後調査」では「あなたは、最近の大学、大学生についてどう思いますか。あなたの考えに近いことをいくつでも選んでください」と複数回答で聞いた。

 子どものいる40代以上の男性について、下流層で多いのは「もっと学費を下げるべきだ」30、「もっと奨学金を増やすべきだ」24、「学生が優秀なら、学費を免除するケースをもっと増やすべきだ」48、「親の収入が低いなら、学費を減らすケースをもっと増やすべきだ」48、「大学を出ても専門知識が身についていない」が51である(図表110)。

 明らかに下流層の親たちが大学に経済的な負担を感じていることがわかる。と同時に、せっかく大学を出ても専門知識が身についていないことへの不満が大きいことがわかる。つまりそれは大学を出ても階層上昇できないということだからだ。

 また、学生自身は「学費を下げるべき」41、「奨学金を増やすべき」19、「優秀なら学費免除」28、「親の収入が低いなら学費減らす」38であり、特に「学費を下げるべき」が多い。最近の学生は、親からの仕送りが減り、学費を稼ぐためにアルバイトに時間を割かれがちだそうであり、そうした自分自身の負担感が表れている。

 当然ながら、子どもが大学に行く世帯が増えるほど、子どもの親は低所得の層が増えるということである。「生活者市場予測システム2014」によれば、第1子または第2子が在学中または浪人中の親の夫婦合計年収は400万円以上800万円未満が約50であり、400万円以上600万円未満でも25である。二人とも私立に通えば学費だけで200万円前後となるが、年収600万円の家庭でも手取りは450500万円くらいだから大変な負担だ。世帯年収が400万円未満の世帯も20いるが、こういう家庭ではどうやって子どもの学費をねんしゆつしているのか。子どもの大学進学により親も子どもも生活が苦しくなる。これを私は「大学貧乏」と読んでいる(拙著『下流大学が日本を滅ぼす!』)。

 他方、子どものいる40代以上の男性の上流層で多いのは「本来大学に進む能力がない人まで大学に進学している」で60、「学生が精神的に幼稚すぎる」で50であり、いわゆる大学の「下流化」を嘆く声である(こちらのコラム参照)

 また上流層の親では、「大学教授は大した研究をしていない人が多いので、数を減らすべきだ」も20いる。

 なお、親の学歴別に回答結果の違いがあるかを見てみたが、それほど大きな差はなかった。

非正規雇用とシングルマザーの下流化

 次に雇用形態別の階層意識を見る。

「会社員(正社員)・団体職員」は「上」14:「中」40:「下」42

「公務員」は「上」23:「中」49:「下」26である。

 それに対して非正規雇用者は、

「嘱託社員・契約社員」   9%2958

「派遣社員」        7%3156

「パート・アルバイト」   9%3352

となっており、会社員、公務員といった正規雇用者より下流が多い(図表111(図表補3参照)。特に公務員で「上」が多いことについては、第2章、第3章で詳しく述べる。

 男女別に見ると、

 男性正規雇用者   164041

 男性非正規雇用者  8%2461

 女性正規雇用者   144240

 女性非正規雇用者  9%3650

である(「正規雇用者」は「会社員(正社員)・団体職員」「公務員」の合計)。

 また、配偶関係別の階層意識を見ると(図表112)、男女とも既婚が最も中流になれるという傾向は私がこれまで調査してきた10年間変わらない。次に中流が多いのは未婚と死別で、男性で53ほど、女性で48ほどである。

 最も下流化するのは離別であり、特に離別して子どもと同居している女性(シングルマザー)は「下」がほぼ7割。特に30代シングルマザーは74が「下」である。彼女たちへの施策を打つことが、格差拡大を進めないための課題のひとつであろう。

 また「下流社会10年後調査」では、配偶関係と雇用形態をあらかじめかけあわせた属性で質問をしたが、これによると、

 配偶者がある非正規雇用者 114340(上から上・中・下)

 配偶者がない非正規雇用者 7%2654

 配偶者がある無職     194533

 配偶者がない無職     8%1565

だった(図表112。配偶者がある非正規雇用者や無職は主婦が多いので中流が多いが、配偶者がない非正規雇用者(いわゆるフリーター)や配偶者のない無職は「下」がかなり多くなっている。

男性は年収400万円ないと結婚しづらい

 また『下流社会』では、男性の年収が300万円では結婚ができないことを指摘した。今回も男性の個人年収別に配偶関係を見てみよう。

 すると、年収200万円未満では62が未婚、200万円~300万円未満では48が未婚で46が既婚、300万円~400万円未満では42が未婚で53が既婚というように、やはり300万円を超えると結婚をする人が増えることがわかる(図表113)。

 未婚率が最も低いのは800万円~900万円未満であり、1000万円を超えると、男性の年齢も高まるためだと思うが、離別が増える。

 また3539歳の男性に限ると、年収200万円未満では87が未婚、200万円~300万円未満でも72が未婚であり、400万円以上となってようやく未婚率が5割を切る。しかし600万円以上であれば7割以上が既婚である。年収によって結婚できるかどうかが決定される傾向は歴然としている。本章の冒頭で年収400万円に階層の切れ目があると書いたが、その傾向は男性の結婚にも当てはまるのだ。

離別・死別したシニアの下流化

 また、性別、年齢、個人年収、配偶関係をクロスすると、たとえば未婚で年収1000万円以上の女性は「上」が55もいる。さらに既婚で年収1000万円以上だと「上」が58に上昇する。男性も既婚で年収1000万円以上は「上」が60であり、男女の差はあまりない(図表114)。

 他方、既婚で年収200万円未満の男性は「下」が7割と非常に高い。さらに離別で年収200万円未満の男性は「下」が83にもなる。年収200万円~400万円未満でも79が「下」である。男性の場合は、年収が低いために離婚された可能性が高い。

 もちろん女性も離別で年収200万円未満だと「下」が69200万円~400万円未満でも65が「下」である。

 このように個人年収が最も階層意識を規定する要因となっているようだが、年収が低いことに離別、死別という要素が加わることで、さらに「下」が増えている。一方、年収が高いことで「上」である人は、結婚もしやすく、結婚によってますます「上」になる。これが現代日本の格差である。

 たとえば、図表114にはないが、3034歳で、個人年収1000万円以上で、既婚の男性は、3段階階層意識「上」が83と、非常に高い。

 逆に、4044歳で、個人年収200万円未満で、離別した女性は、「下」が77と、非常に低い。

 死別の場合でも、男性は年収200万円未満では88が「下」であり、他の年収階層でも女性よりも「下」が多い。

 さらに、男女別・配偶関係別・個人年収別階層意識を年齢別に集計し、未婚の男女の階層意識「下」の人が年をとるごとにどれくらい増えるかを見たところ、男女とも年をとるごとに「下」が増えることがわかった(図表115)。しかし特に顕著なのは男性であり、20代前半では38だった「下」が40代前半では62に増え、さらに60代後半では70に増えているのである。

 これからの日本では離別、死別した人が増えていくので、彼らの下流化をある程度防ぐことが社会の課題になるだろう。

第1章 階層格差の実態 持てる者は富み、富める者同士が結びつく(2)

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