コロナショックの影に潜む、格差の点と線
ステイホームの影響で世界中の女性たちが暴力被害に晒されていることを“シャドーパンデミック”と呼ぶ。だが、暴力のみならず、解雇、貧困、ケア負担増、自殺率急増など女性に集中する“パンデミック”は他にも多くある。表面化しにくい、女性たちの“シャドーパンデミック”。「コロナ禍において女性に何が起こっているのか?」「その背景に何があるのか?」。女性たちの声に耳を傾けながら考えていく。
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1回 点在する「異変」のダメージ――イントロダクション

コロナ禍において、女性に異変が起きている――。昨秋、女性の自殺率が前年比2倍近くに急増したころから、コロナ禍で女性に困難が集中していると報じられるようになってきた。しかし“異変”は昨年春先のコロナ禍が始まった直後から起きていた。この連載では、コロナ禍において女性に何が起こっているのか? その背景に何があるのか? 女性たちの声に耳を傾けながら考えていくことにする。

非正規女性に集中したコロナショック

「女性からの相談が多く戸惑っている」。

 コロナ禍で生活に困窮した人たちからの相談を行っているNPOや労働組合関係者からこうした声が聞かれるようになったのは、コロナ禍直後にさかのぼる。

 2008年のリーマンショック時にも窓口を開き、仕事を失い、生活に困窮した人々の相談に乗っていた「府中緊急派遣村」は、コロナ禍でも204月に府中市、5月に国立市、12月に立川市と狛江市で「困りごと相談会」を実施して相談に応じてきた。「困りごと相談会」では弁護士による相談のほか、労働相談や食糧配布などが行われたが、すでに4月の段階で女性からの相談が多数を占めたという。

 共同代表の松野哲二さんは「リーマンショック時は製造業で働いていて派遣切りや雇い止めに遭ったという男性が大半でしたが、今回は飲食店などで、非正規で働く女性からの相談が非常に多いです。またステイホームの影響で家にいる時間が長く、家族との折り合いが悪くなったり、DV被害を受けるなど家族間トラブルを抱える女性からの相談も増えています」と話す。

 労働力調査などの統計をたどると女性就業者、とりわけ女性非正規雇用者の苦境が顕著になってくる。まず雇用者数を見てみよう。男女ともに緊急事態宣言下の4月に大幅に減少しているが、男性32万人減なのに対し、女性は74万人と2倍以上の減少幅となっている。

 さらに正規、非正規の別でみると4月は男女とも正規雇用労働者数は前年同月比で増加している一方、男性非正規は26万人減、女性非正規は71万人減となっている(図1)。つまりコロナ第一波直後の雇用ダメージは非正規雇用者、とりわけ女性非正規に集中していたということができるだろう。

(図1) 出典:コロナ下の女性への影響について【追加・アップデート】令和3125日内閣府男女共同参画局

 緊急事態宣言が解除された6月以降、男性雇用は回復を見せているものの、女性の状況は改善されず、女性非正規は前年同月比で8月は84万人減、9月は73万人減という状態が続いている。

 さらに産業別の増減を411月でみると、「飲食業」男性87万人減、女性154万人減と大幅に減っており、続いて「製造業」男性74万人減、女性98万人減、「生活、娯楽業」男性5万人減、女性79万人減、「小売業」男性17万人減、女性31万人減と続く(図2)。いずれも男性に比べ、女性の減少幅が著しいことがわかる。

(図2) 出典:コロナ下の女性への影響について【追加・アップデート】令和3125日内閣府男女共同参画局

 従業員中で女性非正規の占める割合が高い産業を順番に並べると「宿泊、飲食業」(女性非正規比率54%)、「生活、娯楽業」(同40%)、「卸売、小売業」(同35%)と続き、4月以降、コロナによる外出自粛の影響により、就業者が大幅に減少している産業と符合する。「派遣・製造業・男性」に集中したリーマンショックに対し、コロナショックは「非正規・サービス業・女性」に集中しているということができるだろう。

 ここ10年ほどの間に女性活躍推進が進み、女性就業者数は過去最高に達しているといわれてきた。しかし実際に増加したのは女性の非正規雇用である。正規/非正規間、男女間、の賃金格差は依然として大きく、非正規雇用だけで生計を維持するのは容易なことではない。

 中でも女性就業者数を押し上げてきたのが介護等を含む対人サービス業であり(図3)、とりわけ「医療・福祉」は女性比率が最も高い(77%)。しかし、これもまた従業者に占める女性非正規比率が非常に高い産業である。

(図3)出典:男女共同参画白書 平成25年版

 特にコロナ禍において、「医療・福祉」と一部の「卸売・小売」で働く人々は濃厚接触を必要とする現場に立たされることになった。彼らはエッセンシャルワーカーとしてにわかに注目を浴びたが多くは低賃金の非正規労働者であり、必要なのはリップサービスではなく、待遇改善と安心して働ける職場環境であったに違いない。

 非正規就業者増という点において女性活躍推進を取り繕ってきた対人サービス業。その二大業種である「サービス業」はコロナ禍で大打撃を受け、「医療・福祉」は最前線での困難を余儀なくされている。女性活躍推進のうしろで見えなくされてきたさまざまな矛盾がコロナ禍で露呈したと言えるのではないだろうか。

飲食サービス業を襲う休業の嵐と使えない補償

 無料で労働相談や生活相談にあたっているNPO法人POSSEには202月末ごろからコロナウイルスに関する相談が増え始めた。女性からのものが多く、11月末までに寄せられた3304件の労働相談のうち6割が女性からであり、その中の7割が非正規雇用者であったという。

2月下旬から3月始めには学校休校措置にともなう休業の相談が増加。その後、緊急事態宣言さなかの4月、5月には、飲食や観光など密になりやすい場所で働いている人たちから、感染対策が不自由分な職場環境に不安があるという声が寄せられました。飲食や接客関係の仕事をしていた20代、30代の女性から生活困窮に関する相談が増えてきたのもこの時期です」

 6月以降は、休業補償に加え、解雇、雇い止めに関する相談が増加。さらにコロナを理由として、賃金減やシフト減などの労働条件の切り下げや不利益変更が行われるケースが後をたたなかった。

 相談内容は社会状況に合わせて日々変化していったが、休業補償に関するものが常に多数を占めていたという。

「休業補償については当初、自分が「使えるのか知りたい」という問い合わせが多かったのですが、次第に「使わせてもらえない」という訴えにシフトしていきました」と渡辺さんは振り返る。

 政府はこれまで、コロナによる外出自粛等の影響を受けた店舗や事業縮小を余儀なくされた企業に対し、さまざまな支援策を打ち出してきた。解雇を避けるため、労働者に支払う休業手当を国が最大で全額助成する「雇用調整助成金」や、学校休校で休業せざるを得ない保護者に支払われる「小学校休業等対応助成金」もその一つだ。いずれも正規、非正規という雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象である。

 にもかかわらず実際にはこうした休業手当を受けることができないまま、解雇や雇い止めになった労働者が多かったことが徐々に明らかになってきた。野村総合研究所が211月に公表した調査では、コロナの影響でシフトが減ったパート・アルバイト女性のうち休業手当を受け取った人は24%にとどまり76%が受け取っておらず、その数は約90万人にのぼると推計されている。

 政府による助成制度が作られ、非正規でも休業補償をしなければならないと繰り返し報じられてきたにもかかわらず、「パート・アルバイトに補償なんてない」とはなから決めつけ、シフトを減らして終わりだったり、「緊急事態宣言で店を閉めるからもう来なくていい」と雇い止めされるケースが後をたたなかった。また正社員は全額補償するがパートは6割しか補償しないなど、あからさまな差別が横行した。

 実際、これは違法とは言えず、労働基準法26条に規定されている休業手当は平均賃金の6割となっている。しかしもともと賃金が低い非正規雇用では最低賃金レベルになる場合もあり、とても生活ができない。また休業手当は休業前の3ヶ月間の賃金を日割りするのだが、休日も含んで計算されるため、実際に受け取れる金額は賃金の4割ほどに下がってしまい、生活困窮に陥ってしまう場合もあるのだ。

 207月、政府は中小企業の従業員で休業手当を受けられなかった個人に対し、個人で休業手当を申請できる「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金(以下休業支援金)制度」を開始。さらに212月には大企業の非正規従業員にも補償を拡大した。申請が通れば休業前賃金の8割が支給されるのだが、手続きが複雑な上、労働局へ提出する書類には雇い先による確認が必要である。しかし、休業手当をきちんと支払わなかったことを労働局に知られたくないと考えたのか、「そもそも休業を命じていない」と雇い主が確認を拒む事態も起こり、受給できなかった人も少なくない。前述の野村総合研究所による調査では、コロナの影響でシフトが減ったパート・アルバイト女性のうち「休業支援金制度」について、「知っている」と答えたのは16%のみであった。非正規で働く多くの人たちにとって、休業補償はまさに〝絵に描いた餅″の状態だったと言うことができるだろう。

「家計自立型非正規」の増加

 今回政府は、休業手当を最大で全額助成し、企業の“持ち出し”をなくす仕組みを作ってきた。にもかかわらず、非正規には適用しない企業が後をたたないのはなぜなのか? そればかりか非正規は真っ先にシフトを減らされ、解雇・雇い止めにされるーーその背景には、企業が非正規を雇用の調整弁としか考えていないことがうかがえる。

 実際、80-90年代の日本経済は、”主婦パート”と呼ばれる、夫の扶養範囲内で家計補助的に働く女性たちによって支えられてきた。低賃金で昇給や社会保障支出が不要な主婦パートは、企業にとって都合のいい存在であった。しかし、90年代後半以降、状況は一変する。非正規雇用者が働く人の半数を占めるようになり、就職氷河期で正社員就職できなかった若者など、非正規雇用の賃金だけで生活する人や主たる稼ぎ手として非正規で働く人が少なくない。

「相談電話を受けてきて感じるのは、“家計自立型非正規”が増えているのに、未だに女性や若者は”家計補助”として企業にとって都合よく扱われているという現実です。『主婦だから夫がいるでしょう』『学生なら親に何とかしてもらって』と言われ、シフトを削られ、クビを切られる。それ自体大変な差別であるし、家族に頼れる人は多くないと感じます」(POSSE渡辺さん)

 シングルマザーや親を介護中の人など、家族のケアを担っており、フルタイムの仕事ができず、短時間パートで働いている人がいる。年金だけでは生活が成り立たずパートで補っている高齢者や病気や障害がありフルタイムで働けない人、一ヶ所の収入だけでは足らず、複数の仕事を掛け持ちする人など、非正規で働く人の中にはさまざまな事情を抱えた人が少なくない。

 コロナで真っ先にダメージを受けたサービス業、飲食業は短時間シフトを組みやすいことから、パートやアルバイトなど非正規の形態で多様な働き方をする人を受け入れやすい側面がある。しかし短時間勤務だからといって家計補助的に働いているとは限らず、それがないと生活できない、欠くべからざる収入である場合が増えているのだ。コロナ禍はすでにギリギリの状態で生活をしてきた最も脆弱な層を襲ったのだった。

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第1回 点在する「異変」のダメージ――イントロダクション(2)
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