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社会貢献、災害報道…利益度外視になりがちなメディアをどう持続可能にしていくのか、市民メディアの実践例から考える【メディフェスリポート②】
市民が中心となって運営したり、運営に参加したりするメディアは、実は全国に多数あります。しかし課題は「持続可能性」。どのようにしていけばいいのか。
11月23日に立命館大学で開かれた「メディフェス」では、市民が参加するメディアの運営に関わる人たちが、自らの取り組みについて語りました。今回は複数のセッションの中から、「持続可能性」の課題について語られた内容を紹介します。市民メディアのみならず、あらゆるメディアにとって、参考になる話だと思います。
スローニュース 熊田安伸
誰もが発信者になれる時代だからこそ「コミュニティを作る役割を」そこがまさに課題
「コミュニティをひらくラジオ」というセッションに登壇した、「京都三条ラジオカフェ」の西村遥加さんは、なんと20代にして放送局長として活躍しています。趣味のポッドキャストで出会いがあり、2024年の4月に就任したばかりです。
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「京都三条ラジオカフェ」は、NPO法人が運営するコミュニティFMとして初めて放送免許を取得し、2003年に開局しました。その特徴はなんといっても「スポンサーなど大きな声で左右されない」市民による番組づくりです。
個人、団体を問わず、ラジオ番組をやりたい人が「番組オーナー」になって放送枠を買い取り、自由に制作・発信します。
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24時間放送で、21年間で2000本を超える番組が放送されたということです。
書店のスタッフがおすすめの一冊を紹介する「本のソムリエ」や、京都のまちづくりをしている人をゲストに招いて活動を紹介する「まちづくりチョビット推進室」のほか、音楽番組や大学生が発信する番組など、多彩なラインナップになっています。
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誰でも放送ができてしまうので、事務局で放送の可否を判断しているとのこと。ただ放送基準は最低限で、誹謗中傷や事実に基づかないことなどを禁止している程度だといいます。
主な事業収入は、85%がそうした番組放送での収入。次いで11%が、101人いる会員からの会費だとのこと。番組による広告収入はありません。
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このため、持続可能にしていくには、やはり常に番組オーナーに参加してもらうしかありません。ただ、ラジオの開局前と違い、いまは誰でも個人で発信できる環境が整っている時代です。どうやってつなぎとめていくのか。
西村さんは、だからこそこのラジオ局の役割があると考え、「発信者と社会をつなぐ」ことを大事にして個人がちゃんと社会とつながっていくためのハブとしてコミュニティを作りたい、ゲストに招いた人とどんどんコミュニティを広げていきたいと話していました。それこそがラジオがもともと持っている機能なのだと。
とはいえ、今の時代に番組を持つことに価値を感じる人を探すのが難しく、どうやったらつながれるか、その仕組みを模索しているといいます。
「若い世代を巻き込みつつ、電波にのせる価値を面白がれる仲間をどうつくれるかを考えたいし、放送局全体で再定義を考えていきたい」
少年院を経験した当事者が語るラジオも「効果は問われる」
名古屋刑務所と愛知少年院の中と外をつなぐラジオ、それが「コウセイラジオ」です。少年院や刑務所に入所した経験者に、なぜ罪を犯したのか。そしてどうやって立ち直れたのかなどを語ってもらうもので、少年院の中でも聞かれています。
企画したのは中日新聞の芳賀美幸記者で、再非行防止につなげたいと、NPO法人の再非行防止サポートセンターの高坂朝人理事長とともに、エフエムとよたに持ちかけて実現したといいます。
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放送開始から2年で45人ほどが出演し、中には少年院を出たあと公務員として福祉施設に勤務している人や、ブラジル生まれのラッパーなども。ただ、何をもって「立ち直った」かは判断が難しく、立ち直りの途上にいる人の危うさも含めてリアルに伝えているということです。
非行した少年たちは、そもそも「出た後のことをイメージできない。自分が活躍していることを思い描くことができない」といいます。そこで立ち直った人のストーリーを届けることで、ロールモデルの発信につなげているのです。さらに、塀の外から中に向けての声援も届けたいということです。
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中立公正をうたう新聞社では、特定の団体と結びつくことは難しいものの、作り手が市民であるコミュニティFMでは、メディア企業だけではリーチできないコミュニティにアクセスできるのもメリットだということです。
とはいえ、どのように持続可能にしていくのかが地域メディアの課題だと、エフエムとよたのディレクター、小笠原禎志さんは語ります。
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ここから先は会員限定です。メディアが持続的に活動していくにはどうすればいいのか。災害報道を継続するための新たなモデルも模索されています。